キャリアカウンセラー山口奈生(やまぐち・なお)さんによるハッピーコラム♡
キャリアカウンセラーの山口です。私はカリフォルニア州のサンノゼに住んでいます。
先日スーパーマーケットでセルフレジを使っていると、急に画面に「係員を呼んでください」の文字が出てフリーズしてしまいました。
係員呼び出しボタンを押すと、離れたところに立っている従業員の方は他の買い物客と話をしています。
対応中かと待っていても来る気配はありません。
どうやら世間話をしているようで、笑いながらストローでアイスコーヒーも飲んでいま
す。
急いでいた私はもう一度ボタンを押し、従業員に声もかけました。
彼女はのんびり歩いてやって来ると、画面を見るなり「機械が故障したのかも。普通のレジに並んで会計をやり直してください」と言い、去って行こうとしました。
しかし、どのレジも長蛇の列です。
15分後に病院の予約があった私は「私、急いでいるの。レジに並び直すことはできないから、あのレーンのレジを開けてくれませんか?」と言うと、従業員の女性は「OK」と、閉じていたレーンを開けて会計をしてくれました。
アメリカ暮らしでは日々、このような「日本だったらこんなことは起きないのに…」という事に直面します。
日本だったら、顧客が呼んでいるのに従業員が立ち話をして来ないなんてことはないし、テキパキ動いて問題解決をしてくれます。
顧客が声をあげなくても、サービスを提供する側が顧客の気持ちを慮って動いてくれる日本。
そんな日本と比べ、一つ一つの事が遅くて自分で交渉しないといけないアメリカ。
正直な話、渡米当初は日々、言わないと動いてもらえないという事にイライラしていました。
しかし、約8年間のアメリカ生活の中で、だんだんと意識が変わってきたのです。
多種多様な人が暮らすアメリカでは、私の「こうあるべき」はただの一意見であって、世間の常識ではないと気が付いたからです。
そして自分が「こうあるべき」を持ち続けることは、自分にとって決して幸せな事ではないと思うようになりました。
なぜなら、「こうあるべき」が果たされないことにずっと不満を抱き続けることになるからです。
顧客と世間話をしていた従業員の方にとっては、なじみの顧客にフレンドリーなサービスを提供することが良いと思っていたのかもしれません。
私には彼女の姿勢を否定できるだけの根拠はなく、自分の予定のために早く会計を済ませたい私の側が一言伝えればいいだけだからです。
しかし、日本社会を見てみると自分の要求を自分の言葉で伝えることを苦手とする方が非常に多い印象があります。
相手の気持ちを考える、言わなくても空気を読むという文化、または「石の上にも三年」のような我慢を美徳とする文化が影響しているのかもしれません。
キャリアカウンセリングの現場でも、相手に「こうあるべき」を押し付けて不満を抱え込んでいる方がたくさん相談にいらっしゃいます。
例えば、「課長との人間関係に疲れている」と、ある女性が相談に来たことがあります。
その方がおっしゃるには、上司は一部の社員とばかりミーティングをしていて自分の相談に乗ってくれる雰囲気がなく、結果としてその方は大量の仕事を抱え込んでしまって毎日大変らしいのです。
「課長が私の仕事量や内容を把握していないから、仕事の分担が不平等になっている。課長は私の状態を分かってくれない」とおっしゃっていました。
私は、相談者の方に「自分の要求を課長に言葉にして伝えてみませんか?」と提案しました。
彼女は当初難色を示していました。
なぜ部下の自分が、上司にあれこれ言わなければいけないのか。
上司なのだから部下の仕事を把握するのは当たり前の事なのに、それをしないのは課長の
怠慢だと言うのです。
しかし私はカウンセラーとして、相手に自分の「こうあるべき」を当てはめて不満を感じ続けるよりも、相手には相手の考え方やスタイルがあると一旦受け入れて、その上で自分の行動の仕方を考えたほうが状況を変えられる可能性が高いことを説明しました。
何も言わずとも相手が察してくれたらその幸運に感謝するべきで、基本的に自分と他人は異なるし、人と人は対話によって理解し合うものだと考えているからです。
そして、相談者の女性と共に、課長への伝え方を何種類か一緒に考えました。
60分間のカウンセリングを終えた後、彼女は、やや不満げではあるものの「自分の言葉で明日課長に話してみます」と約束してくれました。
後日、相談者の方に課長との対話について聞くと、彼女が思い切って相談したら課長は真摯に対応してくれたようです。
「課長は部下の自由な働きやチャレンジを大事にするタイプだったようです。課長に対して自分の『こうあるべき』を押し付けていた自分自身にも気づきました。」とおっしゃっていました。
相手が自分の「こうあるべき」の通りに動いてくれることを期待するのではなく、相手の考え方やスタンスを「それでもいいよね」と柔軟に受け入れること。
そして、自分の要求は自分の言葉で伝えて叶えていくこと。
他者に不満をため込むことに疲れているのならば、一度チャレンジしてみませんか?
山口奈生(やまぐち・なお)
1982年岩手生まれ。
学校卒業後、損害保険会社にて営業や社員教育部門を経験したのち、配偶者の留学に伴い米国へ。
帰国後2014年に国家資格キャリアカウンセラーを取得し人材紹介会社転職。
これまで大学生から社会人まで広くキャリアカウンセリングを対応。
2017年に配偶者の転勤により再度、米国に引っ越した後に、人材系ベンチャー企業にて新規事業立ち上げを経て、翌年2020年7月ワタシル合同会社を設立。
*ワタシル大学Instagram:https://www.instagram.com/watashiru_college/
*ワタシル大学Twitter:https://twitter.com/watashiru_cl
Comments