「伝統」を大切に、自分らしく「今」を生きる
アイヌの伝統文化のひとつである刺繍。
モレウ(渦巻文様)・アイウシ(棘状文様)などの特徴的な文様は、植物のトゲや波・風などの自然の造形を現したものとされ、魔除けの意味もあったと言われています。
大自然を敬い、共に生きたアイヌの人たちは、大切な家族や恋人のために祈りを込め、長い時間をかけて刺繍を施した衣類や装飾具をまとって暮らしていました。
アイヌ文化研究者であり、アイヌ童画作家でもあった父・四辻一朗氏の影響で、その文化に触れて育った四辻藍美(よつじ・あいみ)さん。
お父様に贈られたアイヌ刺繍の美しさに感銘を受け、ご自身でも針を持つようになります。
「藍の色のように美しい心で生きてほしい」
お父様の思いが込められた「藍美」という名前。
その名の通り、藍美さんの作品は、色彩の美しさと、柔らかな風合いが大きな特徴です。
アイヌの伝統を尊重し、そのスピリットを大切に守りながらも、刺繍をする土台の布と、使用する糸の色には「自分の色」を出すことにこだわりを持っています。
オーガンジーのように見える生地は、もともとは古い蚊帳。
柿渋で染め何度も手を加えることで、柔らかな風合いを出したところに、はっとする赤の文様を乗せています。
和紙のようにみえる柔らかな布は、蚕の繭から作られたもの。
蚕の種類などで絹糸として使うことができなかった繭を布にしたものに、カラフルな糸で伝統の文様を施した作品は、藍美さんの独創的な色覚と触覚が顕著に現れた、とても美しいものでした。
「天から役目なしに降ろされたものはひとつもない」
自然への感謝を忘れず、おおらかに、かつ丁寧に生きるアイヌの考え方。
藍美さん自身はアイヌではありませんが、長きにわたりアイヌ文化に触れてきました。
アイヌの素晴らしさを知ってもらえるきっかけになればと、年に3~4回、全国各地でアイヌ刺繍の展覧会を開いているそうです。
「文化をふまえて理解した上で、自分らしくやる」、そうおっしゃる藍美さんの美しい作品から、世界には色々な文化があるということに気持ちを巡らせてみてはいかがでしょう。
*2022年4月29日~5月8日、愛知県小牧市の小牧中央図書館にて「~一本の縄から始まる~四辻藍美 アイヌ刺繍展」が開催されました。
一般社団法人 こまき市民文化財団:https://www.komaki-bunka.or.jp/event/10225.html
*2022年5月28~30日、広島県尾道市ガウディハウスにて展覧会を開催。
*四辻藍美 Instagramアカウント:https://www.instagram.com/aiaiharusuzu/
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